代表挨拶
代表挨拶

理事長 若月秀夫 一般財団法人学校教育研究所は我が国学校教育の充実・発展を願い、昭和31年に設立され、昭和41年に財団法人の認可を受けた後、平成24年に一般財団法人へ移行した歴史ある研究機関です。その間、60余年にわたり「新日本教育年記」を、また時の教育課題を分析、解説した教育図書などを定期的に発刊するなど、学校現場、教育行政機関さらには研究機関などに多大な貢献を続けており、その活動は現在に至っております。

 さて昨今、コロナ禍の世界的蔓延や力による様々な現状変更が現実のものとなり、世界全体のルールや、安定のためには当たり前と思われていた前提がにわかに崩れ去り、心もとない砂上に世界のバランスが存在していたことを、誰もが思い知らされる状況が続いています。「激しい世界の変化」とはよく耳にするフレーズでありましたが、これほどのスピードで事実として我々に迫ってきたことは予想すらできず、実に驚くべきことであります。

 現在の状況はやがて何らかの形で収束はするでしょうが、その後の世界や人々を捉えるパラダイムに大きな変化が生じることは疑う余地がありません。

 こうしたまさに先行き不透明で不安と不安定に被われた時代に遭遇した今、教育関係者が安直でその場しのぎの気休め教育論を語ることは許されません。今まで見失いがちであった教育の本質に今一度回帰し、教育関係者一人ひとりが我が身を振り返り教育本来の在り方を、現実に即し謙虚に捉え返してみる必要があるのではないでしょうか。

 言うまでもなく教育には「個人の人間形成」と「未来社会に対処できる人材育成」という二つの側面があります。 そうした中、近年求められる学力観にも大きな変化、転換がみられるようになりました。具体的には数値化できる能力と、数値化しにくい能力、言い換えれば認知能力と非認知能力双方を重視する学力観です。とりわけ非認知能力に属する学力育成の重要性が強調されるようになっています。現在特に話題となることの多い教育のデジタル化においてもこうした学力育成に働きかける教材開発やプログラムが強く求められています。

 学校教育研究所はこうした問題意識に立ち、柱となる三つの事業を用意しています。その一つが全国の国公立小中学校を対象とした『研究助成事業』です。これは山積する教育諸課題を視野に収め、学校現場における独創的で意欲的な研究実践を支援することを目的としています。

 第二の事業は出版事業です。本研究所は機関誌『教育時評』を年数回刊行しています。これはその時々の教育時事問題に焦点を当て、国や地方自治体の教育行政関係者、更には研究機関や大学等における研究者にその考え方や課題などを平易に解説、論評していただくものです。

 第三の事業が『教育課題研究事業』です。これは主として外部研究者や学校管理職と本研究所の所員が共同で研究を進めていくものであり、主に教育政策や施策、学校経営や教員研修、カリキュラム開発等に関し、より本質的観点からの考察、研究を展開し提言していこうとするものです。

 世界が未来に向けて多難な時代を迎えようとしている現在であればこそ、教育が果たすべき使命は一層重要です。学校教育研究所の活動がこうした世相の中で少しでもお役に立てば、これにすぎる喜びはありません。